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赤坂整形外科

院長のオリジナルの考えをのせています。今までの考えを残してゆくつもりで筆を執りました。読み物だと思ってください。
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コーヒーブレイク
107、私が整形外科医になったわけ2

 今回は、失楽園、愛の流刑地などで、今有名な恋愛小説の作家、渡辺淳一氏の話と、それに関連する私の話です。
 渡辺淳一氏は、25年程前も、すでに有名でした。当時は、医者出身の作家と言うことで、白い影、白い狩人、白い○○など、白い○○シリーズが有名で、医学関係(+恋愛が絡む)の作品が主でした。もともとは、札幌医科大学で、整形外科の講師にまでなっていた方です。私は本をほとんど(全く)読まないので、新しい作品は、実は知らないのですが、学生だった当事は、かなり読んでおりました。渡辺氏の作品は、文章が簡潔で、読みやすかったです。論文は、簡潔で無駄なく、わかりやすい文章ですので、共通しているのだと考えています。以前、ノーベル賞候補と言われながら自決された三島由紀夫氏の作品を読もうとしましたが、文章表現がすばらしすぎて、1ページ進むのに、数分かかり、とても読めませんでした。簡潔で、無駄がないということは、すらすらと読み進むことが出来て、情景がどんどん頭の中に展開してゆくことです。デビュー作は、“光と影”と言う作品で、確か、戦争で片腕をかなりだめにした2人の方がいて、一人は、手術で切断して、腕をなくしてしまい、もう一人は、動かなくなっても腕をつないで残したのです。その後の人生の違い(出世したかしないかなど)を書いたものです。結論は、腕は動かなくてもちゃんとあったほうがよい と言うことでした。“白い狩人”は、有名な話ではありませんが、印象に残っている本です。新進の外科の女医と、その下で働く看護師(看護婦)がそれぞれ日記形式で物語を進行してゆきます。女医はレズビアンで、嫉妬心から、バレリーナの下肢の腫瘍を悪性と判定させて、切断してしまう話でした。内容はともかく、二つの視点で物語が進行しているところに、新鮮さを感じました。
 中でも、本人の自叙伝的な白い○○と言う本(タイトルを忘れました)が、非常に印象的でした。医師になりたての頃のいろいろな経験が書かれていました。読んでいくうち、整形外科は面白いと思い込んでしまったのが、私が、整形外科を選んだきっかけでもあります。

 物語の中で、一人で麻酔をかけて、一人で、腰のヘルニアの手術をしたときの話が在りました。腰椎麻酔で行っていて、麻酔が上のほうまでかかりすぎて、呼吸が止まって?苦しくなってしまい?手術の途中で手を下ろして、管理が大変だったというようなエピソードがありました。
 実は、後になって、これと全く同じように手術をする機会を得られた?やらざるを得ない状況であった?私がいます。手術には、通常、手術を行う執刀医(=術者)と、その助手をする医師、器械を手渡す介助の看護師、ここまでは手を洗って滅菌手袋をして清潔で仕事をしています。他に麻酔をかけて管理する麻酔科の医師、外回りの仕事をする看護師(=よくドラマで、医師の汗を拭く係りの方です。汗が術野に落ちると不潔になるため、これを防ぐことは重要ですが、ただ、これがもちろん仕事のメインではありません。)、したがって、通常は、計5人で行います。ところが、西窪病院(現陽和会武蔵野病院)では、麻酔科の常勤医がおりませんでしたので、可能な限り自分ひとりで麻酔をかけていました。助手の医師も、一人で整形外科を担当していましたので、パートの先生がいない時は、執刀医私一人が医師ということになります。もちろん、器械だしの看護婦と、外回りの看護師はいますので、一人で手術をするといっても、最低3人で手術を行います。助手が必要なときは、別の看護師さんに手伝ってもらい、4人で行いますが、医師はやはり私一人です。
 西窪病院勤務医時代の後半は、腰の手術は、この人数で行う機会が非常に多くなっていました。まず、麻酔を自分でかけるのですが、腰椎麻酔だけで、腰の手術を行うことは、実は難しいのです。腰痛麻酔は、下肢の部分には、よく麻酔がかかるのですが、腰や、背中の部分の麻酔がかかりにくくなります。そこで、少し麻酔の量を増やすと、予想より上まで=背中から、首まで麻酔がかかってしまうことがあります。脳幹部まで麻酔がかかると、呼吸が止まってしまうのです。話の中では、このような状態が起こったと、推察します。それを避けるためには、腰椎麻酔の量は増やさずに、硬膜外麻酔を加えます。硬膜外麻酔では、麻酔の量を、かなり多く入れても、上まで麻酔がかかることはありません。この麻酔だけでも、手術は可能なのですが、麻酔の効き出しが遅い上、実際にヘルニアで圧迫されている神経には麻酔がよくかかりません。肝心のヘルニアを取る場面で、非常に痛がって、手術に差し障りがあります。腰椎麻酔は、効き出しが早く、その神経の部分まで麻酔がかかるのです。

 私は、直に麻酔がかかるように、原因部位の神経まで充分に麻酔がかかるように、まず、腰椎麻酔を行い、それよりも上部の椎間から、硬膜外麻酔をかけて、腰の皮膚まで麻酔がかかるようにしておきました。同時に、チューブを入れておき、(チューブはもともと清潔ですが、外に出ている部分は準清潔=不潔扱いになりますので術野に見えないようにします。)腰椎麻酔が切れてきたら、そのチューブから硬膜外麻酔を追加します。そうすることで麻酔時間も伸ばすことが出来ました。
 ただし、手術は、両肩の前の部分と、骨盤の両サイドの4点で支えるフレームにうつ伏せで載ってもらう体勢なため、麻酔がかかっていない上半身が、次第に苦しくなって、我慢が出来ない方は、30分も立つと、苦しい、辛いと訴えだします。鎮痛剤、鎮静剤で対処しますが、我慢強い方でも、1時間半〜2時間が精一杯です。
 つまり、その時間内に手術を終わる必要があります。椎間板のヘルニアの手術は、なれると30分以内で可能です。ところが、腰部脊柱管狭窄症の手術となると、全く別になります。保存的に手術無しで治療を行うのが、第一選択であった私は、簡単に終わるような椎間板ヘルニアの手術はほとんどなく、保存的治療を行っても改善しないような、非常に圧迫の強い腰部脊柱管狭窄症の手術例が多かったのです。
 保存的治療は、外来でのプロスタグランディン静脈注射、カルシトニン製剤注射、超音波治療などをまず行います。改善しない時は、入院して、硬膜外ブロック治療を行い、チューブを留置して麻酔剤をさらに1週間ぐらい入れ続けます。それでも改善が悪い時は、加えて、神経根ブロックを行うこともありました。(ホームページなど参照)

 手術は、通常のヘルニアの手術とは違い、椎弓の変形が強いため、後ろの黄靭帯から開けることはできないので、いきなり、エアドリル(歯医者で嫌な音を出して歯を削るドリルと同じです)で、骨を削ってから、その靭帯を開いてはがして、圧迫を取ります。真ん中の棘突起は残して、片側ずつ圧迫をはずしてゆきます。最初の圧迫部位の開放(=開窓)が完了すると、個人各々の神経の位置、皮膚からの深さ、骨の変形具合がわかりますので、次の反対側の圧迫を取り除くのは、かなりスムースになります。この麻酔で、通常、2椎間、4箇所までは行えました。我慢強い方なら、2時間ぐらいで、3椎間、6箇所まで開窓出来た記憶があります。

 最後は自慢話になってしまいましたが、西窪病院勤務時代の後半は、このような患者さんが非常に多く集まってきて、保存的に治らない方もかなり大勢でいらして、多い時は、週一回のペースで、一人で腰の手術をしていた記憶があります。
 自慢ついでのこの手術の話をさらに補足させていただきます。
 実はこの手術、手術時間も短く、麻酔も背中から下半身の部分麻酔、手術も腰の後ろの部分だけですので、外科の腹部の手術に比べて、身体への負担が非常に軽いのです。加えて、血液による神経圧迫や、手術後の感染症を防ぐ目的で、手術した部分に、血液がたまらないように、吸引する太いチューブ(+吸引するバッグも外に着ける)も、左右に1本ずつ入れておきます。
 今は、さらに小さな切開で、内視鏡下で侵襲をより少なく負担がかからないように行うことが主流ですが、時間がかかるため、麻酔は全身麻酔ですし、うつ伏せになっている時間も長くなります。それを考慮すると、少しぐらい皮膚切開が大きくなっても、時間が短く、より大きな視野で確実に手術が行える方がよい場合もあります。また、硬膜外麻酔のチューブを残しておくと、そこから痛みを取る麻酔剤を入れられますので、術後の痛みが非常に楽な上、血栓症の合併症もある程度防ぐことが出来ます。特に下肢の手術後に、血栓が肺に飛んで、肺塞栓症と言う命にかかわる合併症が問題となっていて、今はそれを未然に防ぐ薬も出ています。私自身は、硬膜外麻酔で手術を行っていたおかげ?で、一例も遭遇しておりません。
 手術後は、内視鏡下手術の場合は、すぐに歩くことが出来ますが、この場合は、後ろの骨の部分を、何箇所か開窓して、弱くなっていますので、1週間はベット上で安静にしてもらい、その後、硬いコルセットをつけて動いてもらっていました。しかし、術後硬膜外に麻酔剤を入れ続けていると、痛みがないため、手術したその夜に勝手にトイレに歩かれた方も数人におりました。(運動神経まで麻酔がかからないため歩けます。)硬膜外のチューブは、身体に止めておけるので、大丈夫なのですが、血液を引くチューブとバックは、体から離れて転がってしまっていることも在りました。今考えると、もっと早期に、動いてもらっても良かったのかもしれません。
| コーヒーブレイク | 17:37 | - | - | - | - |